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学部・研究科
Faculty/Graduate School
法/文/政策/外/人間/シ/環/化
時間割コード
Course Code
00754
科目名
Course title
サブテーマ
Subtitle
近代市民社会思想を知ろう
授業形態/単位
Term/Credits
クラス
Class
/2
B
担任者名
Instructor
村井 明彦
曜限
Day/Period
火3
授業概要
Course Description
到達目標
Course Objectives

授業種別 / Teaching Types

講義(対面型)

言語 / Language

日本語(Japanese)

授業概要 / Course Description

西洋は古代に始まる。これは自明だが、近代を偏重すると西洋が近代に始まったかに思い込むだろう。近代西洋人の世界観や社会構成原理も中世までの思想や経験から生まれたが、近年その土台が揺らぎ始め、同時に「近代」「市民」「社会」も自明でなくなり始めた。時代が従来の社会思想史の枠組を解体したのだ。枠組を再編するには、近代ではなく古代や中世、市民(世俗)的ではなく宗教的な人間学、社会ではなくその基盤にある個々の人格を扱う思想を捉える必要がある。これはギリシア‐ローマ系の社会思想を参照軸に近代市民社会思想を学ぶことを意味する。全5部からなる。 
  Ⅰ)現代が千年紀的転換期である理由を述べる。
  Ⅱ)近代・市民・社会を中世哲学史を参照して考え直す。
  Ⅲ)中世に始まる近代的な政治学や経済学の歴史を学ぶ。 
  Ⅳ)近代以前の近代化の試みを再開する動きを見る。
  Ⅴ)非西洋国日本の視点から一連の問題を見直す。 
 大災害が多いのは時代の転換の兆しである。厳しい時代だからこそ広い視野から社会を捉え直すことで自分を鍛えよう。

到達目標 / Course Objectives

①知識・技能の観点 基本用語の意味を理解する。
②思考力・判断力・表現力等の能力の観点 基本用語の意味を理解する。
③主体的な態度の観点 基本用語の意味を理解する。

授業手法 / Teaching Methods

・教員による資料等を用いた説明や課題等へのフィードバック
・学生による学習のふりかえり

授業計画
Course Content

授業計画 / Course Content

   Ⅰ 頭を打つ近代――新冷戦と地球文明の旋回
1 講義の視座 中国はソ連や東欧の共産政権の瓦解で共産主義史が終わったという西洋中心史観を批判し、自国が共産主義の正嫡で共産主義史はこれからだと説く。彼らが少数派価値を制度化する「ウォーク」などの文化兵器、コロナなどの生物兵器を用いて英米日の自由主義諸国を内側から解体する戦略に世界が巻き込まれ、西洋中心の世界秩序が動揺し始めた。こうしてグローバル化が歴史の軸を東方にシフトさせたが、次の世界秩序の輪郭はまだ見えない。 

   Ⅱ 基本枠組の再編――近代・市民・社会の見直し
2-5 近代・市民・社会とは何か? 近代・市民・社会の問い直しは第1次世界大戦後に始まった。その結論は…①「近代」の起源は、社会制度上は11世紀に、哲学上は13世紀の聖トマスによる古代哲学とキリスト教の啓示の統合の試みと、14世紀の唯名論革命にある。これらは第1近代第2近代と呼べる。②「市民的」とは「世俗的」を指し、第1近代には聖俗の統合が展望されていたのに、第2近代には分離が始まった。③オルテガは社会学に「社会」の定義がないと見抜いた。これは対象を観察するという第2近代的方法論では他人全体が「社会」なのは自明だからだが、第1近代には「神の似姿」たるペルソナと見る人間観から社会科学が形成された。…神・人・自然からなる第1近代までの形而上学は、第2近代には人・自然のそれへと唯人論化され、形而上学一般をオワコン扱いしたため後者が居座った。これが19世紀末に教会排除の文化闘争に帰結し、唯人論思想を学校で教え始めたので現代人の世界観になった。だがそれが混沌に帰着したいま、近代・市民・社会は全部ぼやけ始め、ウォークなど19世紀的価値の先鋭化で近代市民社会が動揺しているのに対応が後手に回っている。 

   Ⅲ 近代社会科学の中世起源
6-8 教会と国家・政治 11世紀から教会法学者が、異端に走れば教皇すら公会議が罷免できるという教会統治の理論を作り、法理論構成によって教会共同体を運営するしくみが構築される。これを国家が取り入れ、後に立憲主義が成立した。英仏の市民革命を先導した立憲主義も教会統治理論の転用であり、フランス革命後の国家の政教分離は11世紀の教会の政教分離の倒立版である。近年の研究をもとに、以上を背景に生まれた現代政治の党派分布の構図を描く。 
9-10 経済学真史 日本人は経済学の始まりを戦後は啓蒙期と考えたが、戦前は古代と説き、海外では戦後もそうである。中世にスコラ学者が作った貨幣的ミクロ経済学を無視したスミスの学派のみを経済学と思い込んできたのだ。前者はその後も続き1990年代にアメリカ連邦準備の政策に使われ見事な実績を残した。 

   Ⅳ リモダニズム――西洋人にとって「伝統」とは?
11-13  「大きな理性」と「伝統」  カトリックは19世紀末からトマス哲学に根ざして工業社会の労働者の人間像から社会、国家、国際関係を説く「社会教説」を構築し、第1近代的世界観の中で人間が神の恩寵を得て向上するという「大きな理性」を求めた。また古代ユーラシアで一般的だった超越者を尊び身分制をとる社会の伝統を近代に対置する伝統主義、真理常在不変論  perennialism  は、カトリック、ヒンズー教、道教など古代的宗教の伝統の方が社会を安定させると説く。19世紀末のカトリック排除で失われた第1近代の記憶を取り戻すと、政教の相対独立に基づく市民の権利の伸長という11世紀の構想に立ち帰り、ポスト近代主義より再近代主義を育むことが重要だと気づく。 

   Ⅴ 西洋化した非西洋国、日本
14-15 日本という謎と西洋 日本の西洋追随のチャレンジは文化闘争期に始まったため第1近代の無視をまね、自国の伝統も軽視したため、第2近代が世界的に旋回し始めると必然的に目標を見失った。また  アメリカ民主党に敗戦したせいで大政府主義が浸透したため経済成長が止んで世界から取り残されたが、それから独立なアニメ、ポップス、スポーツなどサブカルはグローバル化した。西洋人もこれらに魅かれて日本詣でをし始めたが、自文明のカトリック起源すら忘れやはり目標を見失った。ローマ末期など過渡期には従来の価値体系が動揺し、物事を一から見直さないと国が衰退(時に滅亡)する。だから次世代の価値を模索することが決定的に重要である。 

授業時間外学習 / Expected work outside of class

講義で気になった論点をウェブや本で深掘りしてみよう。

成績評価の方法・基準・評価
Grading Policies /
Evaluation Criteria

方法 / Grading Policies

定期試験(筆記試験)の成績と平常成績で総合評価する。
定期試験70%、平常点30%

基準・評価 / Evaluation Criteria・Assessment Policy

①知識・技能の観点 基本用語の意味がわかっている。
②思考力・判断力・表現力等の能力の観点 基本用語の意味がわかっている。
③主体的な態度の観点 一貫した論述ができる。

教科書
Textbooks

参考書
References

01)ハミルトン&オールバーグ『見えない手――中国共産党は世界をどう作り変えるか』奥山真司監訳、森隆夫訳、飛鳥新社    
02)喬良・王湘穂『超限戦――21世紀の「新しい戦争」』坂井臣之助監訳、劉琦訳、角川新書  
03)ホセ・オルテガ・イ・ガセット『個人と社会』佐々木孝ほか訳、白水社   
04)Michael  Allen  Gillepie,  The  Theological  Origins  of  Modernity,  The  University  of  Chicago  Press  ガレスピー『近代の神学的起源』   
05)Thomas  Woods,  Jr.,  How  the  Catholic  Church  Built  Western  Civilization,  Ragnery    ウッズ2世『カトリック教会が西洋文明を創った』  
06)レオ13世『リベルタス』  https://blog.goo.ne.jp/thomasonoda/e/d411853bf0e245a93656ac532a401381   
07)稲垣良典『信仰と理性』第三文明社   
08)稲垣良典『抽象と直観――中世後期認識理論の研究』創文社  
09)ブライアン・ティアニー『立憲思想』鷲見誠一訳、慶應義塾大学出版会  
10)ヘレーナ・ローゼンブラット『リベラリズム――失われた歴史と現在』三牧聖子・川上洋平・古田拓也・長野晃訳、青土社  
11)バーリ・ゴードン『古代・中世経済学史』村井明彦訳、晃洋書房  
12)ハーバーマス&ラッツィンガー『ポスト世俗化時代の哲学と宗教』三島憲一訳、岩波書店  
13)レイ・カーツワイル『ポスト・ヒューマン誕生』井上健監訳、小野木明恵/野中香方子/福田実訳、NHK出版  
14)ロマーノ・グァルディーニ『近代の終末――方向づけへの試み』仲手川良雄訳、創文社  
15)ルネ・ゲノン『世界の終末――現代世界の危機』田中義廣訳、平河出版社   
16)フリッチョフ・シュオン『形而上学とエゾテリスム』漆原健訳、春秋社  
17)ヴィヤーサ『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦訳、岩波文庫  

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